ジャック・アタリ『新世界秩序』

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今回はジャック・アタリの『新世界秩序』についての個人的な考えをお話ししたいと思います。記事中には私個人の偏見や認識の誤りも含まれていると思います。その点のご理解のほど、よろしくお願いいたします。

 

 

ジャック・アタリ

Jacques Attali - Wikipedia

ジャック・アタリは1991年から1993年にかけて欧州復興開発銀行の初代総裁であり、ミッテラン政権以後、議会を超えて、二コラ・サルコジフランソワ・オランドエマニュエル・マクロンに直接的な影響を与え続けている人物です。

非常に多くの著作を残していますが、個人的に触れたことのあるのが、『カニバリスムの秩序──生とは何か/死とは何か』、『1492 西欧文明の世界支配』、『FRATERNITÉS 反グローバリズム 新しいユートピアとしての博愛』、『国家債務危機――ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?』、『新世界秩序』などになります。

私自身、ジャック・アタリの著作の中で最も重視している著作は最初に挙げた『カニバリスムの秩序』で、以後の作品と比較すると極めて乱雑でまとまりがなく、隠喩的な示唆的な作品になっており、神秘主義あるいは秘密主義的な色合いさえ漂っていますが、簡単に言ってしまえば、欧米社会の裏側で今も文化として残っているカニバリズムについて、彼が具体的に知っている事柄を曖昧な形で表現しているといった内容ではないかと推測します。

今回紹介する『新世界秩序』は日本語でのタイトルで、原題は『明日、世界を支配するのは誰か?Demain, qui gouvernera le monde ?』というものです。作品の前半部分の一部と二部がこれまでの世界の歴史に焦点を当てたものになっており、三部が現在の世界秩序、四部がこれからの世界統治のあり方について論じたものとなっています。

もちろん、当然のことながらジャック・アタリユダヤ人ですので、全面的にユダヤ人がこれまで世界の中心的な指導者であり続けてきたことが示唆的に述べられています。

ヘブライ人[ユダヤ人]は、おそらく史上初めて、自らが想像した唯一神以外に世界に神はいないと考えた。そして人間は、ただ一つの種しか存在しないと考えた。ヘブライ人は、いわゆる「約束の地」以外には征服の意志を持たず、他者への統治も欲してならないという、ただ一つの法をつくり出した。ヘブライ人からすれば、「ノアの七つの戒め」は、すべての人間が遵守すべき規則である。さもなくば、全人類を救い、全人類を統治してくれる救世主は降臨しないのだから。これが地球規模の法の支配と世界秩序について、史上初めて与えられた定義である。

ノアの七つの戒めとは、

① 偶像崇拝の禁止。
② 殺人の禁止。
③ 盗難の禁止。
④ 性的不品行の禁止。
⑤ 冒涜の禁止。
⑥ まだ生きている動物の中から取られる肉を食べることの禁止。
⑦ 法的手段を提供するために裁判所を維持するための要件。

wikipediaより。

序文に見られるユダヤ教についての装飾された無批判な賛美などユダヤ人以外には概ね響きそうもありませんが、アタリにはそういった批判など一ミリも届かないばかりか、恐らく彼に対する批判は反ユダヤ主義のラベリングを貼られて終わりではないかと思います。

アタリの歴史観

私がジャック・アタリで着目する点は第一に歴史観です。アブラハムの宗教の信者に共通してみられる現象ですが、基本的に彼らの歴史観は神話と繋がっています。ジャック・アタリもしばしば地質年代的な知識から世界を論じることがありますが、基本的に彼らにとってそれは重要なことではないと思われます。

そもそも地球科学的な視点と神話的視点の埋められることのない溝について、まったく無関心な態度であり続けるのは私には不誠実な態度としか感じません。

エジプトで奴隷とされていたヘブライ人は、かつて、その祖先の一人アブラハムに「約束されていた」土地へ逃れることに成功した。アブラハムはノアの子孫であり、その三人の息子に世界を分け与えた。一人がアフリカ、もう一人がアジア、三人目がヨーロッパを受け取ったのである。したがって彼らの考えからすれば、人間は一つの同じ人間を出自としている限りすべて平等であり、彼らの唯一神は、あらゆる種類の人類にとっても唯一の神であるはずだ、ということになる。ヘブライ人に言わせれば、すべからく人間は、いわゆる「ノアの七つの戒め」に従わなければならない、、正しい人びとに加わり、救世主の到来を促すためである。

ジャック・アタリが以後述べる世界秩序の前提となっているのは、このようなユダヤ教キリスト教イスラム教などを中心とした宗教の統一であり、ユダヤ人がその指導者として世界を統一しようというのが彼の思想の根底にあると考えるべきでしょう。良し悪しはともかく、日本人の中でも、キリスト教徒やそれに近い考えの人々は、もしかするとジャック・アタリと共通するような世界観を持っているかもしれません。言い換えますと、救世主の到来を待っているという点においては、ユダヤ人もクリスチャンにも違いはありません。

ジャック・アタリの理論に従うと、世界の中心都市はベルギーのブリュージュから始まり、ヴェネチアアントウェルペンジェノヴァアムステルダム、ロンドン、ボストン、ニューヨーク、ロサンゼルスへと移っていったとしています。世界の中心地はヨーロッパから西へと向かい、アメリカの東海岸から西海岸へと移動していったと言います。

商業の中心都市、というよりもむしろ銀行を中心とした金融の街こそが世界の中心であり、世界の中心の中で重要な役割を果たしたのは、何を隠そう我々ユダヤ人であるということを、文章の全体を通じてにじみ出ています。ジャック・アタリに限らず、恐らくヨーロッパのユダヤ人はこの事を誇りに思いつつ、自分たちが世界の支配者としてふさわしい存在であるということを世界中の人々に認めさせたいという所なのでしょう。

もう一つ重要なことは、ジャック・アタリにとってジャン=ジャック・ルソーの『人間不平等起源論』をその思想的根源とするフランス革命を始めとする一連の革命運動を全面的に支持している点です。また、フリーメイソンイルミナティが今日の秘密の世界統治機構であると示唆的に述べています。これまでも何度も述べてきましたが、フランス革命フリーメイソンフリーメイソンの一つのグループであったイルミナティなどによって達成されたものでした。

ジャック・アタリの著作の『反グローバリズム』は、『新しいユートピア:友愛 Fraternités : Une nouvelle utopie』というのがタイトルであり、ジャック・アタリフリーメイソンの会員であることが示唆的に述べられています。日本でも友愛という組織が戦前から度々登場し、現在は元首相である鳩山由紀夫氏が組織化しています。友愛という言葉が独り歩きしていて、実際にどのような定義なのかで意味も違ってきますが、友愛を唱える人々は、友愛の意味合いをハッキリとさせることはありません。それは友愛が友愛団体にとっての規律に従った概念であり、彼らの友愛という概念は一般市民に対して一般化することができない概念と考えるべきです。

ジャック・アタリが以後名前を挙げて賞賛する国際組織は実際はフリーメイソンが支配している国際組織です。ユダヤ人のカール・マルクスが取り仕切った第一インターナショナルフリーメイソンによって運営されていた団体であったにすぎません。近代オリンピックも、赤十字も、国際連合もすべて同じです。赤十字社は欧米のフリーメイソン共産主義勢力を支援するために発明された団体です。しかし、彼らにとってみれば、それは全世界的に誇るべきことであり、独善的であるとは決して言わないのです。

ドイツ民族が世界規模の組織のために主権を放棄するなどということは、ヒトラーにとってあり得ない話だ。

ヒトラーによれば、共産主義のインターナショナルも、資本主義のインターナショナルも、それが成立した責任はユダヤ人の国際主義者にある。

やがてドイツを中心としたヨーロッパ各国のナショナリズムユダヤ人を中心とした国際主義との対立が、第二次世界大戦により決着し、現在の世界秩序は共産主義と資本主義という二つの国際主義が対立し、ナショナリズムが絶対悪という世界観が支配しています。

勝者である彼らは現在、世界統治組織を構築することに取り組んでいます。そのための前段階的な組織としてビルダーバーグ会議世界経済フォーラムCSIS、三極委員会などが存在していると考えることもできます。これらの組織は、陰謀論にとって格好の攻撃の対象となっていますが、ジャック・アタリはゲームのプレイヤーを攻撃するのではなく、ルール作りに取り組む勇気を持つべきだと言っています。

もしもパーティが殺戮に終わることを避けたいというのなら。

しかし、実際にそのルールを作っているのは一部の限られたプレイヤーであり、決して民主的なものではありません。そして彼らはもし自分たちのルール作りの邪魔をするのであれば、このゲームは殺戮のゲームになるよと警告していると見なすこともできるでしょう。なぜなら陰謀論者は彼らを殺戮するほどの力も影響力もないのであり、殺戮をする力を有するのはポピュリストの側ではなく、国際主義者たちの側だからです。

アメリカの凋落

ジャック・アタリは今、ブリュージュより始まった世界の中心都市が、アメリカから別の国に明け渡される可能性を指摘しています。その第一候補は中国であり、アジアの新興国であるというものです。実際に中国にはアメリカほどのリーダーシップは期待できないという点も指摘しています。そして中国の周辺国であるロシア・日本・韓国は衰退の域に入っているとしています。

ジャック・アタリは指摘していませんが、西廻りで世界の中心都市が移行していくというのはやがて、中国も衰退し、インドやインドネシア、更には中東諸国へと向かっていくという話に行き着き、やがてはイスラエルが世界の中心になるという構想を思い描いているのいうのは想像するに難しくありません。ただし、今のところはまだ言わないだけと思われます。

コロナ・パンデミック

2011年に書かれたこの著作では、もちろん現在起こっているパンデミックについて触れています。

特定の国に干渉を受け入れさせて、公私にわたる衛生問題に関して拘束的な政策を押しつけることができるのか、まったく不明なのである。

ビル・ゲイツに限らず、ジャック・アタリもコロナ・パンデミックが始まる以前から、パンデミック対策についての青写真を既に描いていました。恐らくビル・ゲイツジャック・アタリに限らず国際主義者の多くがもう何十年も前から思い描いていたのでしょう。現在のように国際機関や各国政府、大手メディアやインターネットメディアが昨年と今年にかけて行って来たことが、その良し悪しはともかく長い年月をかけて計画されていたことを私たちはしっかりと把握しておく必要があります。

特にフランスではジャック・アタリの下で育成されてきたマクロン大統領はコロナ・パンデミックに当たりジャック・アタリの構想通りに行動していることは明らかです。マクロンが聴衆から平手打ちを喰らったり、また卵を投げられたりしているのは、こういったジャック・アタリの構想に対して忠実にそれを実行していると見なされているからです。

ジャック・アタリの問題点

ジャック・アタリは決して独創的に世界統治機構の建設を目指しているわけではなく、カール・マルクスが主導的な役割を担った第一インターナショナルの伝統に沿った形で、多くの国際主義者にとって共通認識のものとして提案されているのであり、私たちは彼ら国際主義者の目指す世界統治機構のどこに問題があるのかを指摘しつづけなければなりません。彼ら自身はそれを指摘することはありません。それは彼らの構想は彼らにとって素晴らしいものであることはすでに約束されているからです。

ジャック・アタリが自らが構想した世界統治機構について自己批判を行わないのは、彼が全体主義的で、原理主義的だからであり、彼が批判する全体主義原理主義に彼自身が実際は陥っている証左ともいえるでしょう。

しかし、そうであるにも関わらず、実際に多くの政治家や知識人は無批判に彼の理論を取り入れて、社会の制度を彼らの理想に合わせて改変しようとすることでしょう。ジャック・アタリが何故ロシアや日本、韓国、ドイツなどが衰退すると考えているかと言えば、彼らが国際組織を通じて行っていることの真の意味をこの国の人たちがほとんど把握できていないからともいえるのではないでしょうか。特に成長率が著しく停滞してきた日本は、どのくによりも彼らの行動の意味を読み解けなかったのではないかと思います。

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最後に

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