第一インターナショナル③結成と組織

安部磯雄小池四郎共訳の『インターナショナル歴史現状発展』より、第一部・第二章、「第一インターナショナル」からの転載です。一部現代風にしています。共訳となっていますが、元々の著者は不明。【コメント】以下は個人的な感想などをまとめることにします。

安部磯雄・・・日本の社会主義者、日本フェビアン協会発足者、日本ユニテリアン協会会長、戦後の日本社会党顧問

 

 

マッツィーニ派とマルクスの対立

この委員会の委員には、各流派の人々が混在していたから、各種の計画がそれぞれによって持ち出された。1864年10月11日に、マッツィーニの秘書であった陸軍少佐L・ウォルフは、イタリア労働者ネープルス組合の規則を手本として一般委員に提出し、国際労働者連合会――この委員会によってこの名称が採用された――はそれに倣うべきであると要求した。マルクスはそれに反対した。その理由は、インターナショナルを秘密結社にするようになるからという所であった。そしてマルクスは彼自身の草案を提出したが、それが1864年11月8月に一般委員会によって承認された、それは「労働階級に訴える」という形をとったが後年「結成の言葉」として有名になったのが、それである。

マルクスはこの「結成の言葉」を起草するにあたって、妥協点な綱領を作製し、それによって労働者の多種多様の分子を統一させるようにすることが、彼の任務であると確信した。その当時の労働運動界では、労働組合が重要性をもっていたのは、イギリスだけであった。これらの労働組合では、理論よりも寧ろ結果を重んじ、大体として当時流行の学説であった経済的個人主義と政治的自由主義を容認していた所の指導者連の指導のもとに「熟練労働者の貴族政治」が行われていた。

フランス・ドイツ・アメリカの労働組合

フランスではちょうどその時、パリの奢侈品製造業の労働者の間に団結が組織されかかっていた。このパリの労働者は団結権と罷業権とを要求するに変わりはなかったが、英国流の労働組合主義には、至って興味をもたなかった、彼らはルイ・ブランとプルードンの影響を受けて、協同的信用と生産的協同とに絶対的な信用を置いた。ドイツではちょうど、ラッサ―ルが「一般労働者連合会」を組織していたところであったが、それの主要なる要求は、普通選挙と生産的協同にあった。

その他の欧州諸国には、労働者の小さな組合と団体があるのみであった。アメリカはどうであるのかといえば、鉄・建築もしくはそのほかの熟練職業の労働組合が、主として労働者を、インフレーションの影響、大産業主義の急速なる成長、そして移民の影響から護ることに関心を置いていた。このようにあらゆる国々の労働者の組合は、孤立していて国民的スケールにさえも、共通利益という意識水準にまで上ってはいなかった。

マルクスによる起草と共産党宣言

こうした多様な諸団体に等しく受け入れられるような声明を起草するために、マルクスは「共産党宣言」のもつ調子と音色とを控えたのであった。彼は自分ながら苦笑を禁じ得ないような言葉をさえ用いた(例えは「権利」「義務」または「真理」「正義」「道徳」というような言葉――しかしそれは、マルクスの意志を全体として破壊しない様な巧みに用いられてはいる)そして社会化もしくはその他の共産主義者の見解に関するものは、すべてこれを差し控えて、すべての人に例外なく、訴ええられるような観念を強調するに努めた。

その結果として「結成の言葉」は、低調なしかも生ぬるい調子で書かれている、それは1845年から1864年にかけての貿易と商業との偉大なる発達を示す統計を引用している。だが、しかしそれと同時に「富と権力との陶酔的増大は、全然有産階級に局限された」ということを主張している。この「言葉」に従えば「如何なる機械の改善も如何なる科学の産業への応用も、いかなる運転機関の新発明も如何なる移民も、如何なる新市場の開発も、如何なる自由貿易も、あるいはそれらをすべて併せてさえも、なおかつ生産階級の不幸を一掃することの不可能であるということは、欧州の一切の国において、いやしくも公平な心の持ち主ならば何人も、明らかに看守しえる所である。」

労働者の政治権力の獲得と友愛思想

以上と稍毛色を異にした調子であるが、この「言葉」は進んでこういうことを示している、すなわち、1847年にイギリスで獲得した1日10時間制は、その結果、イギリス労働者の物質的、道徳的、ならびに知的な状態改善をもたらしたばかりでなく、それはまた、「原則の勝利」でもあったということを示している、この「言葉」はまた協同的生産の経験を労働者の一勝利として引用した。なぜならば「見くびられていた汚い手」が傭主の助けなしに、生産を遂行することができたからだという。それにもかかわらず労働者の共同的努力なるものは、独占と特権とを抑制するには不十分であるということを、その「言葉」の中でいっている。労働者はよろしく彼らの利益を増進するために、国家の機関を利用しなければならない。従って政治的権力の獲得は「労働階級の最初の義務」であると主張している。

目的達成の一手段として、労働者がもっているものは、数である。しかしたちまちその数も、合同によって団結され、知識によって指導されるのでなければ、秤にかけても目方の出るものではない。労働者が各国において組織されるのでなければ、そして各国の労働者が「友愛の結合」を保つのでなければ彼らの努力は必ず失敗に終わる。しかもそれだけでなく、その外になお労働者が、国際的な行動を取らなばならない理由である。政府の外交政策は、よくないたくらみを遂たそうとし、国民的偏見を利用するものであるが、この国際的団結は労働者は「国際政治の秘密を覚え込ませ、それぞれの自国政府の外交上の行動を監視し」そして「必要ならば、あらゆる力を尽くしてそれを阻止するの義務」がことを教えている。この言葉にはそうした意味のことば記述されてあるが、結末にはかの有名な「万国の労働者よ、団結せよ」の呼ぶかけをもって、最後の鍵盤を力強くたたいている。

マルクスによる全文と規約

マルクスはまた、インターナショナルの前文と規約とを書いている。その規約はインターナショナルの目的を規定して、インターナショナルは、同じ目標、すなわち、労働階級の相互援助と進歩と完全ある解放とを目指している各国の労働組合の間に、連絡と協力とを謀る中心機関であるとしている。連合の会員たる資格は地方的なあるいは全国的な団体――それがいわゆるセクション(支部)となるものであるが――にひろく解放されている。各セクション(支部)は、それぞれ自分の好きなように組織することは勝手次第とされ、そして年次大会に一名の代議員を選出することが許されている。

その大会が評議員を選挙することになっているが、この総評議会の機能は、会員に対し、万国の労働市場の状態を知らしめ、労働条件の研究をし、同じ問題に各国労働大衆の注意を惹かしめ、統計を集め、報告を発表し、各国の労働者団体の全国的統一を促進し、会員が他国に仕事を探すのを助け、そしてこうした目的を達成するために必要な一切の行政事務を遂行するにある。そして総評議会の経費の支弁は総評議会がそれを負担しなければならなかった。

【コメント】

ドイツはアイゼナハ派であるアウグスト・ベーベル、ヴィルヘルム・リープクネヒトなど、ラッサ―ル派以外は概ね親マルクスでまとまっている。ヴィルヘルム・リープクネヒトの子であるカール・リープクネヒトは後に、ローザ・ルクセンブルクと共にスパルタクス団を組みドイツ共産党を創設して蜂起しています。

ドイツの社会主義者には非常に多くのユダヤ人がおり、カール・リープクネヒトもしばしばユダヤ人として言及される言論を目にします。実際にドイツ革命の首謀者の多くがユダヤ人でした。

第一インターナショナルの中で、ブランキ主義やプルードン主義、労働組合主義、イタリア共和主義、バクーニン主義といった強固な党派があるなかで、マルクスが主導権を握り続けることができたのはドイツのユダヤ社会主義者の存在が大きかったのではないかと個人的には推測しています。

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